「旭山動物園12の物語」(浜なつ子)①

根源的な問いに迫る、動物園をめぐる物語

「旭山動物園12の物語」(浜なつ子)
 角川ソフィア文庫

「アイツらヘンな奴らだ」。
園長をはじめ、
旭山動物園で働く人たちは
他の動物園関係者から
そういわれていました。
常識はずれのことばかり
やっていたからです。
しかし、彼らこそ動物が大好きで、
動物のことを
彼らの立場で考えていました…。
(表紙裏の紹介文)

動物園での動物たちの物語です。
そして中学校1年生からでも読める、
専門用語を使わない
平易で読みやすい文章が特徴です。
でもそこで語られていることは
「動物ってかわいいね」だとか
「動物たちを守ろう」のような
平板なメッセージではありません。
失敗を含めた豊富な経験に裏打ちされた
高度な「自然観」なのです。

猛獣の飼育係が定年退職をむかえた日、
3頭のライオンに
お別れの言葉をかけたところ、
3頭とも遠吠えをはじめます。
しかし、冷静にとらえています。
「あ、気持ちが通じたんだ、などと、
 野生動物との距離を
 勝手に縮めることは、
 動物たちにとってうれしいことでも、
 ありがたいことでもないのです。
 そっとしておく…そのほうがずっと
 動物たちを敬っている気持ちが
 表れているはずです」

ゴリラの飼育・繁殖に失敗した原因を
しっかり突き止め、
勉強不足を反省するとともに、
野生動物との関わり方について
真剣に考えています。
「野生動物を人にならすことは、
 その動物がもっている尊厳を
 かすめとることだ。
 それは動物たちを侮蔑することに
 ほかならない。
 だから、人間は彼らの生活に
 立ち入るときは慎重に、そして
 できればつつしんだほうがいい」

共生とは、同じ場所で一緒に
仲良く暮らすことではないのです。
人間はすでに自然から一つ離れた場所に
来てしまったのですから。
人の居場所と動物の居場所を区別する。
その間に緩衝地帯を設ける。
動物の居場所に踏み込まない。
ルールを決めてお互いに干渉しない。
それが大切なのでしょう。

動物が好きで動物と一緒に暮らしたい。
それはペットとしての
動物との生活であり、
その動物は人間とともに
自然から切り離された存在であるから
可能なのです。
野生動物とは
一緒に暮らすことはできないのです。
野生動物どうしも
お互いに棲み分けをしながら
共存しています。
人間も野生であった頃は
そうであったはずです。

自然とは何か、という
根源的な問いに迫る、
旭川動物園をめぐる物語。
子どもたちに新しい気付きを
もたらしてくれる一冊だと思います。

(2020.3.5)

acworksさんによる写真ACからの写真 ※画像は旭山動物園とは関係ありません。

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